東京高等裁判所 平成元年(ネ)2902号 判決 1991年1月17日
控訴人
株式会社住建ハウジング
右代表者代表取締役
白河秀夫
被控訴人
細川洋子
同
細川定男
同
竹中正己
同
藤枝康之
右四名訴訟代理人弁護士
住本敏己
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人細川洋子は、控訴人に対し別紙物件目録記載二1の建物を収去して同目録記載一の土地を明け渡せ。
三 被控訴人細川定男、同竹中正己、同藤枝康之は、それぞれ右建物から退去して右土地を明け渡せ。
四 被控訴人細川洋子が右土地につき建物所有を目的とする地上権を有しないことを確認する。
五 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
(申立)
控訴人は、「主文第一ないし第四項と同旨(第四項は当審における新請求)。(当審における予備的新請求)被控訴人細川洋子が別紙物件目録記載一の土地について有する地上権の地代の額の確定を求める。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び右土地の明渡しを求める部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人は、本件控訴及び当審における新請求棄却の判決を求めた。
(主張)
一 控訴人の請求原因
1 控訴人は、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。
2 被控訴人細川洋子(以下「被控訴人洋子」という。)は、別紙物件目録記載二1の建物(以下「本件1の建物」という。)を所有し、被控訴人細川定男(以下「被告人定男」という。)、同竹中正己(以下「被控訴人竹中」という。)、同藤枝康之(以下「被控訴人藤枝」という。)はそれぞれ右建物に居住し、本件土地を占有している。
3 被控訴人洋子は、本件土地につき建物所有を目的とする地上権を有していると主張している。
よって、控訴人は、(一)被控訴人らに対し本件土地の明渡し、(二)被控訴人洋子との間で、(1)本件土地につき同被控訴人が建物所有を目的とする地上権を有しないことの確認、(2)仮に同被控訴人が本件土地につき建物所有を目的とする地上権を有する場合には、地代の額の確定をそれぞれ求める。
二 被控訴人らの認否
請求原因事実を認める。
三 被控訴人らの抗弁
1 本件土地並びにその地上にある本件1の建物及び別紙物件目録記載一2の建物(以下「本件2の建物」という。)は、もと被控訴人洋子の所有であったが、同被控訴人は、昭和五八年九月二日右土地及び各建物を共同担保として霞農業協同組合(以下「霞農協」という。)に対し抵当権を設定した。
2 霞農協の申立により本件土地及び本件1、2の各建物につき、東京地方裁判所八王子支部において競売手続が開始されたが、その後本件1の建物については競売申立が取り下げられ、昭和六三年一一月一日控訴人が本件土地及び本件2の建物を競落して所有権を取得した。
3 右競売の結果、本件土地とその地上にある本件1の建物とは、所有者が異なることになったのであるから、本件1の建物の所有者である被控訴人洋子は、本件土地につき法定地上権を取得し、被控訴人定男、同竹中、同藤枝は被控訴人洋子の承諾を得て本件1の建物に居住している。
四 抗弁に対する控訴人の認否
抗弁1及び2の事実を認め、同3を争う。
(証拠関係)<省略>
理由
一請求原因事実は当事者間に争いがない。
二被控訴人らの抗弁(法定地上権の存在)について検討する。
1 抗弁1及び2の事実は当事者間に争いがない。
2 <証拠>によると、本件土地は、多摩川に面した南向きの傾斜地であるが、昭和五二年一一月三〇日ころ当時の所有者であった第一総業株式会社が、傾斜部分の低地に鉄骨の土台支柱を立て、一階部分を北側道路に等高に接続させて木造二階建の居宅を建築したこと、昭和五七年九月四日被控訴人定男が右土地、建物を買い受け(のちに被控訴人洋子に真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を経由)、同年一〇月一二日、被控訴人洋子が右土台支柱及び傾斜面と一階の床部分との間の空間を利用し、右鉄骨の土台支柱間にブロックの壁を築いて新たに一階部分を建築したが、その構造は洋間二室と被控訴人ら自身が主張することを忘却する程度の簡単な玄関口とから成り、旧建物部分とは天井をくり抜き、はしごで連絡するものであったこと、そして、被控訴人洋子は、昭和五七年一〇月二二日右建築部分を区分所有建物として保存登記をし、旧建物部分は新たに二、三階として区分所有建物の登記が経由されたことが認められる。
3 被控訴人らは、被控訴人洋子が本件土地つき法定地上権を取得したと主張するので判断する。
(一) 右のとおり、本件1の建物は階層的区分所有建物であるところ、かかる建物の場合は、その敷地は物理的には単に一階部分のみならず二階以上の部分をも含む一棟の建物全体を支持しているのであり、このことが法律関係に反映することを承認せざるを得ず、各区分所有建物を所有するためにはその敷地自体についてこれを利用する権原が必要であって、民法二六九条ノ二の規定による地上権のような、その敷地上の一定範囲の空間を占有使用する権原を有するのみでは足りないというべきである。したがって、各所有者の敷地に対する権原が共存するためには右権原を共有(準共有)する方法によるほかはない。地上権は、他人所有の土地を排他的に利用することができる物権であるから、これを特定の区分所有建物の所有者にのみ与えることが許されないことは明らかであり、競売の結果法定地上権の発生を認める余地はなく、被控訴人洋子が本件土地に地上権を取得したとの主張は採用し難いといわねばならない。
(二) そもそも、民法三八八条は、その制定の時期からいっても、区分所有建物の存在は想定していなかったと解され、階層的区分所有建物についてはその適用がないと解するのが相当である(付言すると、昭和五八年改正の建物の区分所有等に関する法律二二条(昭和六二年一二月二八日から施行)により、区分所有建物とその敷地とは不可分的に処分しなければならないこととなり、これに伴い競売においても同様の取扱いをすべきこととなったから、区分所有建物の競売についての法定地上権の問題は解消するものと解される。)。
なお、本件1の建物は、その構造は前示のとおりであって、果して独立の住居としての効用を備えるものといいうるかにすら疑問をさし挟む余地があるものである上、本件2の建物の既設土台支柱を自己の支柱として利用して増築の形で建築されたにすぎず、本件1の建物固有の構造物が本件2の建物を全く支持してはいないのであるから、その収去についても、増築部分を撤去することにより容易に行うことができる。
三以上の次第で、控訴人の、被控訴人洋子に対し本件1の建物を収去して本件土地の明渡しを求め、被控訴人定男、同細川、同竹中に対し右建物から退去して本件土地の明渡しを求める各請求はいずれも理由があり認容すべきであるから、右各請求を棄却した原判決を取り消し、当審における控訴人の被控訴人洋子に対する本件土地について建物所有を目的とする地上権を有しないことの確認を求める新請求を認容し、仮執行の宣言については相当でないから付さないこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官丹野達 裁判官加茂紀久男 裁判官新城雅夫)
別紙物件目録<省略>